印刷通販業界の周辺ビジネスについて

ここ2年ほど印刷通販業界の盛り上がりをチャンスと見たベンチャー企業が「価格比較サイト」及び「クチコミサイト」を立ち上げて収益化を狙っている事例がいくつか見受けられます。ポータルサイトをつくって集客し、印刷通販業界から広告をとってくるビジネスモデルです。私の見解は「ビジネスモデルとしては筋が悪い」です。理由はいくつもあります。

周辺ビジネスを展開するには市場規模が小さすぎる。

この業界の市場規模は、いろいろな試算がありますけど大きく見積もっても400億程度です。大きくない市場にてメインプレーヤーでさえ薄利多売戦略で厳しい戦いをしているのに、外側の周辺事業に商機があるとはとても思えません。現実問題としてIllustratorPhotoshopを操れる人の数プラス若干名以上の市場規模はありません。あるように喧伝している人たちもいますが、それは希望的観測が濃すぎて現実を見られない人の虚言です。

広告費を払ってくれる潜在顧客数が極めて少ない

以前この業界をリサーチしている金融関係の方から聞いた話です。印刷通販会社で黒字化しているのはトップ2社+2番手グループ3〜4社プラス3番手グループ数社までだそうです。あとは赤字か微々たる利益をあげているところばかりだそうです。となると広告宣伝費をGoogleやYahooに貢ぐ以上のコストを捻出できる会社の数は一桁しかありません。その数社からビジネスを成り立たせるだけの収益を得るのは非常に難しいといわざるを得ません

ネガティヴな情報を発見できないポータルサイトに人は来ない

数少ない広告費を払ってくれる会社が顧客である以上、クライアントにとってネガティヴな情報はサイトに載せられません。そういった制約のなかで「口コミ情報」なるものを掲載しても真に印刷通販利用者が必要とする情報がそこにあるわけがありません。ポジティヴな情報しか載せられない口コミサイトは存在矛盾と申せましょう。

価格比較情報の貧困さと不徹底さ

メインコンテンツである「価格比較システム」も、印刷通販側から見ると不徹底さが目に余ります。各社それぞれの工夫をしたサービスを前提とした価格体系を提供しており、それを単純な物差しで比較されるのは本意ではないはずです。そして、発注する側にとって本当に欲しい情報は「表面的なコストの比較」ではありません。実際に必要なコストは、「発注後何日で納品できるか」「折り加工・ミシン加工・孔開け加工・ナンバリング加工といった追加加工費も含めてのトータルコスト」「問題が生じたときに適切かつ迅速に対応してくれるかどうか等のコストのリスクヘッジ」等の複数のファクターを勘案して初めて算出できるものなのです。そのあたりの機微をキチンと配慮しないと使えるサービスにはなりえません。オフセット印刷物はコモディティ商品かもしれませんが、工業製品としての印刷物のトータルコストは安易なシステム上で比較算出できるようなものでは全くないです。それは何よりも利用されるお客様が一番よく知っていることです。